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ニュースで語学・その2

更新日:2023年3月15日



「TGVで患者を搬送」をフランス語で読む。


 今回はフランスを代表する新聞《Le Monde》(ル・モンド)のオンライン版より、Covid-19の患者を地域圏(région)をまたいで搬送するTGVに関する29日付の記事を取り上げます。

 TGVとは、フランス語読みでは「テー・ジェー・ヴェー」、train à grande vitésse の略で超高速列車、すなわち日本でいうところの新幹線のこと。表定速度(実際の距離を所要時間で割って算出された速度)で見ると、日本の新幹線を上回る欧州一の高速鉄道です。

 感染爆発を起こしたフランスは州に該当する地域圏が18あり、記事によると先週末にグラン・テスト地域圏(Grand-Est)から36名の罹患者がヌーヴェル=アキテーヌ地域圏(Nouvelle-Aquitaine)に移送された、とあります。記事からは医療崩壊瀬戸際の緊迫したフランス国内の様子が生々しく伝わってきます。

《Selon Jérôme Salomon, 250 patients ont bénéficié de transferts sanitaires afin de désengorger les hôpitaux saturés, dont plusieurs dizaines ce week-end. Les deux TGV médicalisés partis dimanche matin du Grand-Est pour évacuer 36 malades sont arrivés en Nouvelle-Aquitaine.》

「(仏保健当局責任者)ジェローム・サロモンによると、飽和状態に達した病院の負担を軽減すべく、250名の罹患者の医療輸送を行い、うち数十名が今週末に移送された。36名の患者を避難させるためグラン・テスト地域圏を日曜日の朝に出発した医療用TGV2台がヌーヴェル=アキテーヌ地域圏に到着した」

 《bénéficier de ~》は「~の恩恵に浴する」「~を享受する」という意味。《bénéficié de transferts sanitaires》は直訳すると「医療移送の恩恵にあずかる」となるでしょうが、ここでは単に「移送された」と訳してみました。《désengorger》は、《dés-》《en-》《gorge》と意味的に3つに分けられる動詞です。《gorge》は元々は「喉」を表す単語で、それに「中へ、内へ」を意味する接頭辞《en-》が付加されて《engorger》、すなわち「詰まらせる、ふさぐ」という意味になり、そこに「分離、除去」を表す否定的含意の接頭辞《dés-》がついて「詰まったものを通じさせる」というのが《désengorger》の直接的な意味になります。「入院患者でいっぱいになった病院(ここでは定冠詞付きの複数形が使われているのでグラン・テスト地域圏全域の病院と理解されます)の”膠着状態”=”詰まり”を緩和する」という意味でしょうが、なかなか訳しにくい単語ですので、ここでは「負担を軽減すべく」と意訳してみました。

《Le premier train, parti en fin de matinée de Nancy, a conduit 24 malades jusqu’à Bordeaux. Une vingtaine d’ambulances et des dizaines de personnels soignants en blouse blanche intégrale les attendaient pour les diriger vers des établissements de la capitale girondine, mais aussi de Libourne, Pau et Bayonne. 》

「最初の列車は午前最後の便でナンシーを発ち、24人の患者をボルドーまで運んだ。およそ20台の救急車と全身白衣の防護服に身をまとった医療関係者数十名が待機して、ジロンド県の首都(ボルドー)はもとより、リブルヌ、ポー、そしてバイヨンヌ(いずれもヌーヴェル=アキテーヌ地域圏内の都市)の各施設へと患者を搬送した」

《Le second train, parti de Mulhouse, est arrivé à Poitiers avec 12 patients à bord. Quatre d’entre eux ont été emmenés en ambulance au CHU de Poitiers, qui avait déjà accueilli la veille six malades, arrivés par avion.》

「2台目の列車はムルーズを発ち、12人の患者を乗せてポワチエに到着した。うち4人は救急車でポワチエ市内のCHU(公立の大規模医療センター)に移送された。このCHUは前日、飛行機で運ばれた6人の患者をすでに受け入れている」

 《à bord》は、「乗り物に乗っている状態」を表す熟語です。

《Quatre autres patients ont été héliportés dimanche vers La Rochelle et quatre autres sont partis par la route vers Niort et Angoulême.》

「別の4人の患者が日曜日にヘリコプターでラ・ロシェルへ移送され、また別の4人がニオールおよびアングレム方面へ向かった」

《Au total, la région Nouvelle-Aquitaine aura accueilli 54 patients du Grand-Est depuis vendredi. Ces évacuations, les plus importantes jamais conduites depuis le début de l’épidémie en France, visent à désengorger les hôpitaux du Grand-Est, l’une des régions les plus lourdement touchées par l’épidémie. Elle comptait samedi 3 777 personnes hospitalisées, dont 786 en réanimation, pour un bilan de 757 morts liés au Covid-19.》

「全体としてヌーヴェル=アキテーヌ地域圏は金曜日以来54人の罹患者をグラン・テストから受け入れることになるだろう。今回の患者の避難は、フランス国内のエピデミック勃発以来これまで指揮された措置のうち最も重要なものであり、最も感染被害の大きい地域の一つであるグラン・テストの病院の窮状を救うためのものである。グラン・テスト地域圏は土曜日の時点で重症患者786名を含む3777人の入院患者を数え、Covid-19による死者は757名に上る」

 上記パラグラフの一行目に《aura accuelli》とありますが、これはいわゆる「前未来」と呼ばれる時制です。「ある未来の時点ですでに完了しているであろう行為」を表す際に使われる表現で、ここでは「受け入れることになるだろう」とかなり直訳的に訳しました。ちなみに《accuellir》は「迎える、受け入れる」という動詞で、ここは助動詞《avoir》の単純未来形の後について、r が落ちて過去分詞となっています。なお前未来の形は「助動詞(avoir・être)の単純未来+過去分詞」となります。

 上記パラグラフでは2箇所、訳すのに苦労したところがあります。一つは最後の行にある《en réanimation》という熟語で、réanimation を辞書で調べると「蘇生」とあるので、初めは蘇生した、つまり退院した人が786名いるのかとも思ったのですが、en との組み合わせで、ここは蘇生治療中、すなわち集中治療室に入っている重症患者のことだと思い直し、「重症患者」としました。もう1箇所は、最後の《pour un bilan de 757 morts liés au Covid-19》で、ここの訳は自信がありません。《bilan》という単語は新聞記事によく出てくる単語で、例えば Grand-Est の最新の感染者数を調べようとしてヒットした france 3 の記事には、次のような見出しがありました。

《Selon les chiffres de l'Agence nationale de santé publique du lundi 30 mars, le bilan du coronavirus covid19 dans la région s'aggrave avec 3.950 personnes hospitalisées. 919 personnes sont mortes dans le Grand Est depuis le début de l'épidémie. 103 morts supplémentaires en 24 heures.》

「3月30日月曜日の仏保健当局の数字によれば、入院患者は3950人に上り、地域圏内の新型コロナウイルスの《bilan》は悪化している。感染勃発以来グラン・テストにおける死者は919人を数え、さらにこの24時間で103名が亡くなっている」

 件の《bilan》は仏和辞典(ロベール)によると、①貸借対照表、②総まとめ・現状・現況、③収支・バランス…と続くのですが、おそらくは②の「現状」ないしは「状況」と訳すべき単語であろうとは文脈から推測されます。とはいえそこまでは追跡できても、やはり《pour un bilan de 757 morts liés au Covid-19》の訳出が私にはちょっと難しい。「Covid-19に関係する死者数が757名となっている現状に対して…」と訳し、「…3777人が入院している」とするのが正しい気もしますが、ここは曖昧にぼかして、死者数と入院数とを併記する訳を採用しています。

 31日午後23時現在、東京都の感染者数が521名、関東7都県の合算が946名であることを考えると、人口や医療施設の数の違いはあれ、フランスの一地域の窮状は、対岸の火事として看過できるものではありません。日本でもこのまま患者数が増えれば、医療用新幹線が罹患者の搬送に使われるなどという事態も絵空事ではなくなるでしょう。沈着冷静に、そして正しい判断をするために、日本のメディアだけでなく海外のそれにもアンテナを広げ、状況を注視していく必要を切に感じます。(F)


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