「小池都知事、再度外出自粛要請」を英語で読む。
英語その他の外国語の力を錆びつかせないよう、日々何ができるかと自身に問うて、英会話教室もいいけれど時間もないしお金もかけたくない…となったら半ば強制的に外国語の環境に身を置くに如くはないとなって、それでスマホのベース言語を英語に変えたのが今年の初め。以来、Googleが配信するニュースはすべて英語となり、否応なしに毎日英語を目にする環境となったわけですが、昨今は新型コロナウイルス関連の記事が様々な国から届いて、気の向くまま読み比べるうちに、英語の学習はもとより、各国の報道スタンスも垣間見えてじつに意義深い体験となっています。はるか昔に受験勉強に勤しんだ自身を思い出すにつけ、こんなに手軽に世界の情報に直に触れられるのだったら英語学習ももっと楽しく捗っただろうに…と儚みつつ、隔世の感は拭えません。情報化が促進する現在、キーワードは「いかに時間とお金をかけずに最大限の効果を引き出すか」だと思います。どうせスマホに時間を取られるのなら、興味のあるものを外国語で観たり読んだりすることで、語学のスキルを磨いてもらいたいもの…と子どもたちには切に思います。
「ニュースで語学」では、私個人の備忘録も兼ね、つまみ食いならぬつまみ読みした外国語の記事の気になった箇所を抜粋引用し、あわせて英語をはじめとする外国語に親しむ一助となることを期しております。
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前置きが長くなりました。早速ですが、今回ご紹介するのは、NHK WORLD から27日に配信されたオンラインニュースです。25日の記者会見の2日後の定例会見で、小池都知事が再び都民に向け週末の外出自粛要請を行った旨を伝える記事です。
《The governor of Tokyo has again urged people to refrain from non-essential outings, warning that the capital is at a critical juncture in preventing an explosive spread of the coronavirus.》
「東京都当局は不要不急の外出は控えるよう都民に再び強く訴え、首都はいまコロナウイルスの感染爆発を防ぐ重大な局面にあると警告した」
《urge somebody/something to ~ 》は「人に~することを強く促す」という意味です。《refrain》はリフレイン、曲の繰り返しという意味もありますが、ここでは動詞で、《refrain from (doing) something》の形で「~することを控える」という意味になります。《non-essential outing》は最近よく耳にするようになった「不要不急の外出」の英訳、そして《critical juncture in preventing an explosive spread of the coronavirus》は、直訳すると「コロナウイルスの爆発的拡大を防ぐという行為における重大局面」、すなわち知事がフリップで掲げた「感染爆発 重大局面」の英訳となります。
「感染爆発 重大局面」の真ん中の空白が曲者というか、なかなかに日本的で、私たちはこれを見て「感染爆発(するかしないか)の重大な局面」のことだとすぐに理解できますが、おそらくは日本語初学者であれば、「感染爆発重大局面」と書いてあるのを見て、「感染爆発の重大な局面」すなわち「感染爆発に内在する重大局面」と受け止めもすれば、「感染爆発という重大局面」と受け止める可能性が十分にあって、かくも日本語およびそれを取り巻く環境は知事の会見においてすら曖昧なわけです。むろん、言葉を尽くすことの冗長さを嫌う日本人、ひいては日本語の特質というのはあるでしょう。
いっぽう、上記の英訳に見られるように、《juncture》のあとに《in preventing 〜》を挟むことで、どういう重大局面なのか、多少冗長になろうと明確にしないではいられないのが西洋諸言語です。《prevent》は「防ぐ」の意。《prevent somebody/something (from) doing something 》で「~が~するのを防ぐ」という使い方をします。ちなみに《prevent A from ~》は《refrain A from ~》とならんで受験英語ではかなりポピュラーな成句表現です。
ところで「感染爆発」の意味で使われているのらしい《overshoot》(オーバーシュート)という単語を日本のメディアで最近よく目にするようになりました。しかしこの単語、このNHKの英語版の記事にしかり、海外のメディアにしかり、使用されている例を寡聞にして知りません。広義では「行き過ぎ」という意味ですが、例えば予算の超過であるとか、飛行機が誤って滑走路からはみ出すとか、そういった時に使われる単語です。感染爆発は、上の引用にもあるように、《explosive spread of the coronavirus》が一般的です。
《Yuriko Koike made the appeal as she reported 40 new cases in Tokyo on Friday. The Japanese capital has seen 40 or more new patients for three straight days.》
「小池百合子都知事は金曜日、新たに40名の感染者が見つかったと述べ、先のような呼びかけを行った。東京では3日連続で40人を超える患者が新たに発生している」
このパラグラフでは2行目の現在完了の使い方に注目です。3日連続して40人以上の罹患者が出ている、というのは現在まで連続して生起している事柄ですから、こういう場合は継続を表す現在完了が使われます。「3日連続して」は《for three straight days》というんですね。「連続~日間」は、ほかにも《for three days in a row》や《for three consecutive days》という言い方があります。
《She said the figure reaffirmed that the metropolis is on the brink of a sudden surge in the number of cases.》
「都知事は、この数字は首都が感染爆発の瀬戸際にあることを改めて物語っていると述べた」
この一行には、大変「おいしい」idiomがあります。すなわち《on the brink of ~》です。海外の記事でもよく目にする表現です。《brink》とは元は崖などの「縁」を表す単語ですが、転じて「瀬戸際、寸前」となり、《on the brink of ~》のような「~の瀬戸際」「~に瀕して」というネガティブな成句(悪い意味)で使われます。《sudden surge in the number of cases》は《explosive spread of the coronavirus》、つまり感染爆発の別の言い方です。英語、わけても西欧言語を学ぶ際の一つのハードルは、言い換え表現の多様性にあると私は考えています。これを楽しめるかどうかが語学修練のカギなのではないでしょうか。ちなみに《sudden surge in the number of cases》を直訳すると、「感染症例の数の突発的な急増」とでもなるでしょうか。
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「ニュースで語学・その1」で扱った記事の重要表現は以下の通りです。
参考となれば幸いです。
1. Please refrain from smoking.
喫煙はご遠慮ください。
2. The police are urging drivers to avoid the area.
警察はドライバーにその地域に近寄らないよう強く勧告している。
3. non-essential outing(s)
不要不急の外出
4. critical juncture in ~
~における重大局面
5. an explosive spread of the coronavirus / sudden surge in the number of cases
コロナウイルスの感染爆発
6. We were prevented from entering the site.
現場への立ち入りを阻止された。
7. The plane overshot the runway and plunged into a ditch.
飛行機は滑走路をはみ出し、側溝に突っ込んだ。
8. It rained for eight days straight.
8日間続けて雨が降った。
9. His presidency was on the brink of disaster.
彼の大統領体制は崩壊寸前だった。
10. There has been a tremendous surge of interest in Japanese foods.
日本食に対する関心が非常に高まっている。
(F)
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